ICTシステムが私達の生活やビジネスにおいて欠かせないものになるにつれて、システム停止による影響は拡大し、高可用性は必須の要素となっています。可用性を高めるためにはいくつかの実現方法がありますが、ここでは一般的な、スタンバイ方式、クラスタ型、共有仮想ディスクの利用、そしてフォールトトレラント製品の利用について、そのメリットと注意点などをご紹介します。
スタンバイ方式
本番機以外に予備機を用意し、予備機をあらかじめ立ち上げているものをホットスタンバイ、本番機が利用不能になった場合に予備機を立ち上げるものをコールドスタンバイと呼びます。一番、安価で簡単だと思われるかもしれませんが、本番機が利用できなくなった際の対応には注意が必要です。
同じIPアドレスを同一のLAN上で同時に2台のシステムでは利用できないので、予備機を利用する場合には今まで本番機が利用していたIPアドレスに変更をしたり、LANケーブルを本番機から予備機に差し換えをする必要があります。その後、ping等でネットワークの疎通をLAN上の他の機器と双方向で確認します。アプリケーションを起動し、ダミーデータ等で稼働を確認できたところで、ようやく業務を再開することができます。
かなりの手作業が発生し、またそれなりの技術知識を持ち合わせていることが必要です。そのような技術知識を持っている運用担当者は、障害が発生するたびに呼び出されることになりますが、障害がいつ発生するかは判りません。つまり、初期投資時には見えていない、技術知識を有する運用担当者の人件費が必要となります。
また業務再開までに複数の作業が必要となり、それに伴う作業時間がかかります。作業終了するまで業務再開はできず、作業が多ければ多いほど、業務停止時間が長くなります。また人的要因によるエラーも発生しやすくなります。

HAクラスタ構成
HAクラスタ構成も本番機、予備機の構成ですが、スタンバイ方式と異なる点は本番機が障害で利用不能になった場合、自動的に予備機に切り替える仕組みとなっています。この本番機から予備機への切り替えをフェイルオーバと呼びます。
なるべく本番機が利用不能になる直前までの状態で予備機から業務を再開させるために、本番機、予備機の双方に共通の外部ストレージ装置を接続するのが一般的です。こうすることにより、本番機が利用不能になる前までに書き込んでいたデータを、フェイルオーバ後に予備機で利用できるようになります。
このため外部の共有ストレージ装置が必要となり、PCサーバとの間をファイバーチャネルで接続する場合、ファイバーチャネルのスイッチ、また各PCサーバにファイバーチャネルのポートをサポートするカードが必要となります。またこれら各機器の導入、設定費用も必要です。さらにHAクラスタ機能実現のためのソフトウェアが必要で、このソフトウェアの導入、設定費用も発生します。
また、実際にフェイルオーバが正しく行われるかどうかの検証作業が必要です。完全に本番機が稼働停止してしまうような場合であれば、単に予備機に切り替えれば良いのですが、稼働停止にまでは至らない障害が発生する場合に注意が必要です。またこのようなケースは多く発生します。例えばネットワークインタフェースカード単体の故障や、LANケーブルの断線などは、稼働停止には至りませんが、業務としては処理の継続ができずに、滞ってしまいます。
このような場合に対してHAクラスタのソフトウェアでは様々な対処の設定や挙動の設定が行えるようになっています。設定したものに対しては検証して確かに意図通りの対処や挙動になるか確認する必要があります。これらの設定で対応しきれない事象については、正しく、または期待したとおりには動作しません。
HAクラスタ構成の良い点は一般的な機器を用いて構成できることですが、それゆえに、業務が停止している時間を如何に短くするかという技術なため、業務停止を排除することを目的としていません。つまり、業務停止が、短時間であれ、必ずともなうということが特徴です。
ここ数年は仮想化技術が普及し、仮想化技術を用いてHAクラスタ構成を構築できるようにもなりましたが、前述のとおり注意が必要です。

共有仮想ディスクの利用
仮想化技術の一つに仮想共有ディスクという技術があります。これは2、3台のPCサーバの内臓ディスクを仮想化技術で束ねて、一つの外部共有ストレージ装置のように見せかけて利用する技術です。こうすることにより外部の共有ストレージ装置を購入するより安価に同等のことが実現できます。またデータの消失を防ぐことが簡単にできます。
ただし、あくまでもディスクの仮想化でありデータの可用性のみについての機能であることに留意が必要です。業務処理の可用性については別な手段を講じる必要があるため、別途、HAクラスタソリューションを購入、導入、設定し運用することになります。こうなると運用担当者は仮想共有ディスクの知識と運用とHAクラスタソリューションの知識と運用の二つの階層を面倒見なければならなくなります。
前述の外部の共有ストレージ装置を利用するよりは多少運用負荷は下がるかもしれませんが、HAクラスタソリューションを利用する限り、それにおいては同様の運用負荷が発生します。

フォールトトレラント製品
フォールト トレラント(以下、FT)には前述した方式や技術と全く異なる点があります。それは、前述した方式や技術が既存の一般的な製品を利用して、業務停止時間を短くすることを目的(停止時間が発生すること自体は回避できない)としているのに対して、FTはその製品の開発当初より連続可用性、無停止を実現することを目的としていることです。
10年、20年前は非常に高価な技術でしたが、昨今はHAクラスタソリューションより安価になっていることは、あまり知られていないかもしれません。安価であることの理由の一つは外部の共有ストレージを必要としないことです。また障害時の挙動のための設定や検証が必要ない(FTのシステム側で自動的に対処する)ので、そのためのコストと作業を削減することができます。
従来は独自ハードウェアによる製品が主流でしたが、ソフトウェアベースの製品も機能が充実し使い勝手も良く、柔軟なシステムを構築できます。
ストラタスの35年以上にわたる連続可用性技術を搭載したソフトウェアFT製品everRunは、2台1組のPCサーバでフォールト トレラント システムを実現する、簡易性、堅牢性、柔軟性に優れたSoftware Defined Availabilityソリューションです。
一般的なHAクラスタシステムとeverRunの違い
比較項目 | 他社HAクラスタシステム | everRun |
信頼性 | 高可用性 | 無停止型(FTモード) または高可用性(HAモード) |
アベイラビリティ | 99.9% | 99.999% 以上(FTモードの場合) |
年間平均システム停止時間 | 計算上8.76時間 | 計算上5.256分未満(FTモードの場合) |
障害時対応 | フェイルオーバ用スクリプトの作成やエージェントのインストール等とその動作検証が必要 | 設定は不要 |
サーバダウン障害発生時 | フェイルオーバ その間は業務停止 |
無停止(FTモードの場合) またはフェイルオーバ(HAモード) |
コンポーネント障害時 | フェイルオーバ その間は業務停止 |
論理ディスク、ネットワーク障害では無停止(FTモード、HAモードとも) |
運用性 | 手作業の場合あり クラスタの運用、共有ディスクの運用があり複雑 |
GUIで簡単 |
導入設定時間 | 検証により数日から数週間 | everRunのインストールは1時間程度 |
専門技術の必要性 | 利用するクラスタに特化した専門知識は必須 | わかりやすく、直感的なGUIで導入、運用操作 |
運用費用 | 共有ディスク等の保守費用が発生。運用する人員の技術度合いによる人件費が必要 | 通常運用以外の特別な費用は無い |
初期費用 | 共有ディスク、FCスィッチ、FCカード等を利用する場合には別途費用が必要 検証用等の構築費用が発生 |
一般的な導入設定費用のみ |
共有ディスク | 外部接続の共有ストレージ、 または複数サーバによる仮想共有ディスクが必要 |
不要 ユーザ希望により外部ディスクとしてNASやISCSI接続、FC接続のストレージは利用可能(必須ではない) |